つぶやき会議室

つぶやきなのに、会議室です。会議室ですが、つぶやきます。

2001/03/04(03:36) from 211.216.216.34
作成者 : きんちょ (ak@chuwol.com) アクセス回数 : 24 , 行数 : 172
【掲示板投稿から転載】有声/無声の対立と韓国語の音韻
 掲示板での質問に わたしが回答したものです。あとで参照することの
ありうる内容なので、ここにも のこしておきます。


 にほんごオンライン( http://nihongo-online.org/ )
「2 ことば・教え方質問」掲示板 より

−−質問−−

現在、韓国で教えているのですが、韓国人には濁音と清音の区別が難しいみ
たいなんです。 よく生徒さんに『が』と『か』、『だ』と『た』、『で』
と『て』、『ど』と『と』の区別ができないと言われます。
今日の授業で作文させたときにもほとんどの人が間違えていました。
濁音になるべきところが清音になってしまうのです。

−−−−−−−−−−

 こんにちは。韓国で日本語教師をしているもので、
きんちょ と もうします。ここでは、この問題について
調音音声学的な考察を簡単に くわえておこうと おもいます。


 た/だ に関連する発音のパターンを4種類、模式図で
かくと、つぎのようになります。
 ぱ/ば や か/が なども原理的には おなじことなので、
この例から類推してください。


 −−−は 子音[t/d]が発音されるときの
破裂をしめしています。
 〜〜〜は 声帯の振動をしめします。したがって、
うえの−−−(振動)と〜〜〜(こえ)が共存するときには
有声子音[d]となり、共存しないときには無声子音[t]
となります。
 ○○○は、呼気をあらわします。破裂をおこしたり、母音
を発声したりするためには呼気が必要ですから、呼気があり
ます。とくに、[1]の発音のように子音と母音のあいだに
呼気だけが でていることが ありますが、このような ばあい
「有気音」と よばれます。また、通常の呼気は肺からの
空気の ながれですが、声門を閉鎖して肺からの空気の供給を
たちきったうえで、くちの なかに のこっていた空気だけを
はきだして発音することが あります。それが[2]ですが、
そのときの声門の閉鎖を★で、肺からの空気の供給をうけな
い呼気を●で あらわします。

 そうすると、韓国語と日本語で「た/だ」に かかわる発音
は、つぎの4種類に まとめられます。


[1]| t  |  | a |
   −−−−
   ○○○○○○○○○○○  [t'a]
          〜〜〜〜

[2]    | tt | a |
      −−−
  ★★★★●●●●●●●    [tta]
         〜〜〜〜

[3]|  t  |  a  |
   −−−−−
   ○○○○○○○○○○      [ta]
        〜〜〜〜〜

[4]|  d  |  a  |
   −−−−−
   ○○○○○○○○○○    [da]
   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 日本語では、[1][2][3]は 区別されることなく
すべて「た」に きこえます。そのなかで もっとも自然な
発音は[3]ですが、[1]や[2]も、口調や前後のオト
の環境によっては ときおり あらわれます。そして[4]
だけが「だ」と認識されます。
 これに対して韓国語では[1]の発音と[2]の発音と、
[3][4]の発音の3グループに わけられます。ハングル
で かくと、この3種類が区別されます。[1]は激音と
よばれるもの、[2]は硬音(濃音)と よばれるもので、
[3]と[4]は平音と よばれています。ただし、[3]と
[4]は条件異音で、語頭や無声子音につづくときの発音で
は[3]が、語中・語末で母音や有声子音につづくときの
発音では[4]が つかわれます。


 韓国語話者が日本語の清濁の発音が にがてであるとか、
かきとりで頻繁に まちがえるとかの理由は、ここに あり
ます。日本語で区別しなければならない[3]と[4]が
おなじオトだと感じられるからです。このため、濁音が
発音されていても認知することが むずかしいのです。(とり
わけ語頭での発音では困難です。)
 しかも やっかいなことに、韓国語では、母音や有声子音の
あとに[3]のような発音がないので、「きた」の「た」の
ような発音は、日本語話者が[3]のように発音していたと
しても、[2]のように感じられます。(実際の日本語でも
こういうときには[3]よりも若干[2]に ちかく発音され
ているとおもいます。)そのときの[2]のように感じられ
るオトと語頭で[3]のように発音されるオトとが、韓国語
では まったく ちがって きこえるのですが、日本語では お
なじオトと あつかわれますから、ここでも混乱が生じるの
です。

 混乱に わをかけているのは、韓国で出版されている非常に
おおくの教科書が「た」は[1]で「だ」は[3]ないし
[4]の平音であると解説していることです。ですから、その
ように おしえる教師も おおいし、そう信じこんでいる学習者
も おおいということになります。これは、日本語のハングル
転写法や韓国語のローマ字表記法などが間接的に影響している
問題なのですが、それは おいておくとして、現場で そのような
ことが おこなわれる動機は、韓国語話者にとって区別が
困難な対立を容易に区別できる対立に おきかえてしまおうと
いう ちからが無意識に はたらいてしまうというところから
きています。ちょうど、日本語話者が英語の「B」と「V」
を区別するために「ビー」「ブイ」と いうようなもので、
それは便宜上の よびなに すぎないことは あきらかですが、
「ビー」と「ヴィー」の区別が つかない以上は やむをえな
いことだとも いえるのです。
 とはいえ、この結果、語頭であっても語中であつても
「た」を[1]のように発音(「た」には きこえるが、
なにか、はきすてているような印象をあたえてしまう)し、
「だ」は語頭で[3]の「た」のように発音していても
かまわないのだと かんがえる学習者は あとをたたないのです。
 したがって、「たい」などという単語をかきとらせようと
すると、教師は しばしば
  [t'ai]([1])ですか[tai]([3])ですか?
という質問をうけます。そこで自然な日本語の発音で
  [tai]です
と返事をすれば、学習者は自信をもって「だい」と かくという
わけです。
 日本語をならう以上は、こういうことをつづけているのは
有害無益であることも指摘しないわけにはいきません。



 さて、最後に指導法について ふれておきます。
順序としては、
   a.語中の「た」 b.語中の「だ」 
   c.語頭の「た」 d.語頭の「だ」 
というふうに おしえていくのが いいと おもいます。
 a.は[2] b.は[4]で発音させれば、区別は
すぐに できます。(韓国語話者には[3]と[4]の区別が
ないけれども、日本語の語中では 母音に はさまれるために、
自然に[4]が選択されるからです。)ただ、a.のオトは
[2]で いいのですが、そうすると「きた」と「きった」の
区別が つかなくなるので、そのときに拍のながさに注意させ
る必要があります。わたしは「た」をはやくいうか、「き」を
みじかくいえと いつも いっています。
 c.は[3]の発音ですが、語頭ですから、自然に発音さ
せれば、いいでしょう。これとa.とは、ちがう発音に きこ
えるけれども、日本語では おなじオトなのだということを
しつこく指摘します。
 最後にd.です。これは、あたかも語中でのb.を発音
するときのように、まえに かるい母音(たとえば「ウ」)が
あると おもいながら「平音」を発音するように指導します。
d.は むずかしいのだから、すぐに できなくても いいと、
いって、リラックスさせながら、ときどき反復練習すると、
徐々にc.との ちがいが わかるようになると おもいます。
最近の中学生くらいの韓国人は、この感覚を非常に はやく
習得するように なりました。

 発音について、くわしく論じると キリがないのですが、
このくらいは音声学の基礎があれば じゅうぶん理解できる
ことですので、まず教師が それをきちんと あたまの なか
で整理して理解し、それを指導に どう 応用すればいいか、
理論的に かんがえられるようになることが大切だと おもい
ます。そのためには、韓国語の音声についても、最低限の
ことは、しっていなければなりません。
 より くわしくは、拙稿
http://www.chuwol.com/hozon/kanato.htm
を ご参照ください。ソウルで おこなっている在韓日本語教師
の研究会のレジメです。この研究会は どなたでも参加
できますから、興味が おありでしたら、連絡をください。

Copyright (c) 1998-2000 Nobreak Technologies, Inc.
If you have any suggestion, please mail to japan@nobreak.com