(1999年1月16日から)
以下の文章には、続編があります。
「て形」というのは、
たべて・のんで・よいつぶれて・はいて・ねて
などの、動詞形のことです。いわゆる学校文法では、この形は不当な差別を受けていて、まともに活用の一つとして認められていません。なぜかというと、たぶん、
「歴史的にこれは、連用形が崩れたものなのであって、新しい活用の変化形なのではない」
という偏狭な態度を固持しているせいではないかと思います。ここにも、国語学者たちが、言語学の常識である共時態の分析をきらい、通時的な立場で「正しさ」を主張しようとしている哀れな姿を見て取ることができます。
「て形」を独立した活用形の一つと考えると、「たべて」の「て」が助詞であるはずの学校文法で、 「のんで」の「で」は何なのかという、至極当然な疑問に苦しい答えを用意する必要がなくなります。 「て」を助詞だと言う必要がなく、「たべて」までで動詞なのだとすればいいからです。
日本語教育では、国語教育とちがって、「て形」を動詞の活用として扱います。しかし、それを受け入れている日本語教師のなかにも、テストなどで、
あの人は、教科書を( )て います。
というような穴埋め問題を作る人がいたりします。これは、「て形」の最後のひらがなが「で」にもなりうるという事実が、「て形」を活用形の一つとみなす考え方を支えているという、物事の根本を忘れたものであると、言わざるを得ません。
ところで、日本語の学習者と教師を悩ますのは、「て形」を得るための規則が複雑であるということです。多くの人になじみのある学校文法の用語で言うと、五段活用をする動詞の多くに「音便形」が現れるからです。ちなみに、この「音便」という考え方こそが、だれが見ても「連用形」ではありえない「て形」を、「本来連用形であったものが音の変化を起こす現象」と言い張ることで解決しようとした、国語学者の発明したアイディアなのですが。
日本語教師たちは、学校文法で「音便」というものを、「て形の規則」として教えることになります。
たいていの場合は、動詞を
五段活用するグループと、
一段活用(上一段活用と下一段活用)するグループと、
変格活用(サ変とカ変)するグループ
に分けてから、
「後の二つは、ます形から、〈ます〉をとって、〈て〉をつける」
「最初のグループは、活用する行によって、細かい規則がある」
と、いうことになります。
ただ、問題は、日本語教育のおおかたの順序として、〈ます〉の形のあと、いわゆる終止形(辞書にある形)を教える前に「て形」が出てくることです。五段活用・一段活用・変格活用という分類は、〈ます〉の形と終止形との関係を示していますが、「て形」に関しては、あまり役に立つ分類ではないのです。そういう終止形が導入されていない段階で、この3つのグループ分けをする理由付けを学習者に示すことは困難ですし、「て形」を導入するためだけに、そのすこし前に、終止形をこっそり教えるという流儀もあるようですが、いかにも不自然です。
結局、学校文法でしたように、〈ます〉の形、つまり連用形を基本にして、そこからの対応関係で「て形」を教えるのが一番いいのかもしれません。ただし、そこでは、「音便形」は逸脱でも例外でもなく、原則。そして、「上一段動詞」のほうが例外の扱いを受けることになります。下に、表を示しましょう。
表中の色つきのところが、「音便」です。それから、斜体のところは、「例外」が一つしかない項目を表します。斜体でないところは、そのほかにも「例外の動詞」がありうることを示しますが、初級の段階では、どう考えても、これ以上の「例外」を教える必要を見いだせません。結局、活用形の分類は、もっとあとの段階にしても「て形」は教えられるということですね。
外国語の教授法のなかには、入門者にまず、命令の形から教えるべきだというものもあります。この教授法では、「命令」と言っても、実際は[て形+ください]を使うことになるので、こういう教授法を限定的に採用している人なんかには、このことは朗報であるはずです。
〈ます〉の形の |
「て形」の |
例 |
|
「て形」の |
例外の動詞 |
□きます |
□いて |
書いて |
|
□きて
□って |
起きて 来て 着て
行って |
□ちます |
□って |
立って |
|
□ちて |
落ちて |
□います |
□って |
言って |
|
□いて |
い(居)て |
□ります |
□って |
作って |
|
□りて |
借りて |
□ぎます |
□いで |
脱いで |
|
□ぎて |
過ぎて |
□みます |
□んで |
読んで |
|
□みて |
見て |
□びます |
□んで |
遊んで |
|
□びて |
浴びて |
□にます |
□にて |
似て |
|
□んで |
死んで |
□します |
□して |
貸して |
|
例外はなし |
|
□じます |
□じて |
信じて |
|
例外はなし |
|
#ます |
#て |
寝て |
|
例外はなし |
|
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