(1999年1月16日から)

 あなたは結婚しましたか。[結果の残存]

 多くの動詞は、「結果の残存」を表すアスペクト形式を持っている。

 「結果の残存」というのは、動詞の表す〈動き〉がどの段階にあるかを
表す形式(アスペクト−「相」と呼ばれることが多い)のなかの一つである。

 アスペクトの種類を文法形式にそって考えると、

   [a] 〈〜ます〉という表現が成立する時点
   [b] 〈〜ました〉という表現が成立する時点

に対して、

   (1)aに至る前の段階
   (2)aとbの間の段階
   (3)bのあとの段階

の3種類が考えられる。「着替え中」という意味で「着ています」と言えば
(2)であり、着衣を指して「着ています」と言えば(3)の意味になる。

 「結果の残存」とは、この(3)の段階で、動詞の表す〈動き〉の効力が、
痕跡、その他の形で続いている状態であることを表す用法のことである。

 結果の残存を表す動詞の形式は、肯定・否定で次のような形式をとる。

A)もう、夕ご飯を食べましたか。−−− はい、もう食べました。
                −−−いいえ、まだ食べていません。

B)白い服を着ていますか。   −−− はい、白い服を着ています。
                −−−いいえ、白い服を着ていません。

C)この話を知っていますか。  −−− はい、知っています。
                −−−いいえ、知りません。

また、「残存」する〈動き〉の効力が、動詞の表す〈動き〉の主体(主語)で
なく、動詞の表す〈働きかけ〉の対象(いわゆる他動詞の目的語)のほうに認
められることを表す場合には、その「対象」について、

D)宿題はしてありますか。   −−− はい、してあります。
                −−−いいえ、してありません。

という形式がある。D)では、もとの動詞の主語は明示されなくなる。従って、
D)の形式は、アスペクトとヴォイス(態)の両方に関わっていると言える。

 さて、ここでの問題は、どんな動詞がA)B)C)の形式をとるかである。
多くの動作動詞は、[〜ました]の形でも[て形+います]の形でも、結果の
状態を表すことができるが、表題の「あなたは結婚しましたか」が誤文である
とすれば、その場合にはA)は使えず、B)の形だけが許されていることにな
るわけだ。なお、このいずれの場合も、否定形は[て形+いません]となる。

 『アスペクト・テンス体系とテクスト』(工藤真由美・著 ひつじ書房1995)
には、一般論として次のように書かれている。

  (1)シテイルは、出来事時点を示す形式とむすびつくが、シタは普通
    むすびつきえない。

  (2)シテイルでは、過去の出来事を現在と関わらせるにあたって、
    〈論理性=解説性〉を全面にだすことがあるが、シタはそうならな
    い。シタは日常会話で使われ、シテイルは、論述的な会話、文章に
    あらわれる。

(1)は、「3年前に一度見ています」は、現在に及ぶその結果の残存を示すけ
れども「3年前に一度見ました」では、単なる過去の事実で、それが現在に何ら
かの効力を持っていることを明示しないという意味だ。これは、「3年前」とい
う「見」た時点を示す時の言葉が挿入されたことによる解釈の幅の制限だという
ことである。
(2)は、[て形+います]の形式が用いられる場合には、それが何らかの判断
の根拠付けになっていることが多いというのである。例として、警察の取り調べ
や裁判での検事や弁護士による追及の論述があげられいる。

 さて、この一般的な傾向から、「結婚しました」「結婚しています」の当否
を論じることができるだろうか。一般に、ひとに対して既婚かどうかをたずねる
ときに、「結婚しましたか」ときくのは、確かにおかしい。しかし、それは、結
婚した時を表すことばがない場合でも、論理展開を伴わない場合でも、おかしい
のである。上の一般的な傾向からだけでは、この例を説明できないことは明らか
だろう。

 工藤氏の著書では、「結果の残存」を「パーフェクト」と呼び、アスペクトと
しての完成相と継続相との複合、テンスとしての出来事時点と設定時点との複合、
の二つの複合が複合した二重複合構造であるとしている。そして、[〜ました]
の形は、完成相を示す用法から派生し、[て形+います]の形は継続相を示す用
法から派生したとしている。「結果の残存」とは、〈動き〉が完成したからこそ
「結果」なのであり、その〈動き〉の効力が「残存」しているという意味で状態
の継続だというわけである。上記の(1)(2)の特徴も、

1.単純な完了相(完成相過去)が、設定時点が出来事時点から分化する
 ことによって、「パーフェクト」の用法が派生したのであるから、
 [〜ました]の形式で出来事時点を明示したら、もとの完成相過去でし
 かなくなってしまう。

2.このように、[〜ました]形式は、完成相過去と解釈されるケースが
 あるので、論理展開における二つの事象の共起性を強調するためには、
 [て形+います]が選ばれる

というように理由付けが可能である。ここまでさかのぼって考えれば、「結婚し
ていますか」
のケースも解けるのではないか。この質問をしているときに、「既
婚である」ということが「結婚する」という〈動き〉の完成相であることはほと
んど意識されない。ただ、現在を貫いて継続している相手の状態を尋ねているだ
けである。そのことが、完成相の形式の派生用法をきらい、継続相の形式の派生
用法を選ばせているのではないか。同様な例に、「立っていますか」というのが
ある。「立ちましたか」ときくのは、さらに時間をさかのぼって立つことが予定
されていることが了解事項であった場合だけである。わたしは、ここに、

3.[〜ました]形式は、動詞の表す〈動き〉の開始時点を意識にのぼらせ
 て、そこからの変化が残存することを示すことで「パーフェクト」の用法
 に拡張されるのであるから、〈動き〉の完成したあとから認識された主体
 に対しては使用されない。

という命題を加えることを提案する。そうすると、

 「あの人は、結婚しましたか。」

と言うときは、結婚前によく知っていた人に対して用いているのだということが
理解されるだろう。「ごはんを食べましたか。」は、初対面の相手にも言えるだ
ろうが、食事前に会っていない場合には、
「もう」をつける必要があるだろう。
そして、この場合、食事はだれでも定期的にするものだという前提があることも
忘れてはならない。

 実際に教えるときには、わたしは、このように説明している。

《食べます》のときは、
  
1.たべます   2.たべました
という言い方で、1.がスタート、.がゴールですね。

《結婚します》のときは、
  
1.結婚します  2.結婚しました
という言い方で、どこがスタートですか。結婚のスタートは1.ではなくて、
2.でしょう。「結婚しました」[終わり]じゃなくて、[始まり]なん
です。こういう動詞は、結果の意味で、
2.を使いません。
   
「結婚しましたか」とは言わないで、「結婚していますか」
とききます。「結婚しましたか」ときくのは、
   
「結婚式は終わりましたか」
と、いう意味のときか、
   
「何月に結婚しましたか」
と、きくときか、
   
「ぼくが好きなあのアイドルタレントは、もう結婚しましたか」
と、心配して確かめるときか、
   
「何回結婚しましたか」
と質問するときですね。そういうときは、2.がスタートなんじゃなくて、
2.で、終わってしまったんですね。 


 最後に、C)のパターンについてふれておこう。これは、「知ります」に限った
例外だと書かれた本が多い。実際には、
「気に入ります」のような類例もあるのだ
が。
 例外であるにしろ、どうして例外になるのか説明があってしかるべきである。

 思うに、
「知ります」「気に入ります」も、動詞の表す〈動き〉の始まりが明
確でない。いつ
「知った」かわからないということがほとんどである。そういうこ
とと関係があるのではないだろうか。スタートが常に否定形でしか始まらず(おっ、
これは畳語表現だ!)ゴールだとわかったときにはすでに完成しているような〈動
き〉が、まれに存在する。日本語はたまたま、そういう動詞に特別の形を用意する
ことができたということだろう。


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